あらすじこれは、もしかするとあったかもしれない過去のお話。
あなた(主人公)は、病で伏せっている祖母のために、従者の相良泰臣と山へ薬草を採りにいきます。
しかし途中で雨に降られ、雨宿りをしている最中に鬼の集団に遭遇してしまいます。
怯えるあなたに対して、遭遇した鬼たちはあなたが人間だとは気付いていないようで——?
キャスト魂宮 魁(声:谷山 紀章)、颯(声:内田 雄馬)、結鶴(声:田丸 篤志)、相良 泰臣(声:興津 和幸)、柊 知影(声:立花 慎之介)
公 開 日2017年6月9日(金)
 
第二弾以降は、小説とボイスドラマのセットでお送りします。
前半の小説をお読みになった後、ボイスドラマをお聴きください。

 十八、十九……二十。
 渡された勾玉を数え終えると、巾着の中へ戻す。
「確かに受け取った。知影、後で颯に渡しておけ」
 隣に座っていた知影に勾玉の入った巾着を手渡し、鎮宮に視線を戻す。
 今日は祈女の力が込められた勾玉を受け取る日だった。
 妖魔を倒すには、鎮宮家の祈女であるこいつの力が必要不可欠で、これがなければ鬼は妖魔を倒すことができない。
「……相良が迎えに来るのは明日の朝だったか」
 鎮宮の隣へ目をやり、尋ねる。
 鎮宮の従者の相良は、いつもならば鎮宮の横に張り付いているが、今日は長老に頼まれた用があるとかで忙しなく人の村へ帰っていっていた。
「はい。それまでお世話になります」
 鎮宮は畳の上に手をついて、丁寧に頭を下げる。
 それを横目に見つつ、小さく咳払いした。
「……あー、せっかく泊まるなら、夜は宴会でも開くか? それとも村を案内してやろうか。何か希望があんなら遠慮なく言ってみろ」
 相良がいれば、余計な世話だとこいつが答える前に突っぱねようとしただろうが、幸い明日まではいない。
「それでは……よろしければ、湖巌門を見せていただけませんか?」
「……は? 何でんなとこに……」
「灯巌門を守る祈女として、対になる門である湖巌門を目にしておきたいのです」
 鎮宮は至極真剣な顔で話している。
 どうやら、本気で湖巌門へ行きたいと思っているようだ。
「気持ちは分からなくもねえが……真面目過ぎんだろ。他にしろ」
 湖巌門のある内輪山には妖魔が多く出没する。それを思うと、あまり鎮宮を近付けたくはなかった。
 万が一、こいつに何かあったら、俺は……
「いいでしょ、彼女は湖巌門へ行きたいんだから。……それとも、魁が嫌なら俺が連れていってあげようか」
 突然、それまで黙って聞いていた知影が話に割って入ってきた。
「……は? 二人で行く気か?」
「そのつもりだけど、何か不都合?」
「……別に、そういう訳じゃねえが……」
 やたらと笑顔な知影から顔を逸らし、鎮宮の方を向く。
「……おい、お前。こいつと湖巌門に行きたいのか?」
 尋ねると、鎮宮は躊躇う様子を見せながらも頷いた。
「その……できれば、湖巌門へは一度行ってみたいと……」
「…………ああそうかよ。それなら勝手にしろ」
 何故だか無性に腹が立ち、立ち上がると広間の外へ出た。
 くそ……鎮宮のやつ、人の好意を無碍にしやがって。
 知影も知影だ。従者のくせに主を放って人間の女なんかと……。
 そう考えかけて、ふと足を止めた。
 ……いや、あいつは確かに人間だが……他の人間とは、少し違う。
 人間なんて、皆、身勝手で不義理な奴ばかりだと思ってたのに……あいつは、いつも人のことばかり気にして、役目を果たす為なら危険も厭わねえ。
「…………」
 湖巌門くらい、連れて行ってやればよかったかもな。
 あいつが役目のこと以外で何か頼んでくるなんて、滅多にねえし。別に、妖魔の一体や二体、俺一人でも倒せたわけだし……。
「あの、魂宮様……!」
 不意に背後からかかった声に振り返ると、鎮宮がこちらに駆け寄ってきた。
「あ? お前、知影と湖巌門に行ったんじゃなかったのかよ」
「いえ、柊様は急用ができたので、やはり魂宮様に頼んでくれと……」
 ……なんだよそれ。用ができたからって、自分が引き受けたもん俺に投げるなよ。
 確かに連れて行ってやればよかったと後悔はしていたが、ここで「それなら俺と行くか」なんて言うのはどうにも癪だ。
「……申し訳ありません。魂宮様は湖巌門へ行くのはお嫌なのでしたよね。今のは忘れてください」
 黙り込んでいると、怒っていると勘違いしたのか、鎮宮が頭を下げて踵を返そうとする。
「——待て」
 慌てて腕を掴んでそれを止めた。
「別に、嫌だとは言ってねえだろ」
「え……」
 驚いたように目を見開かれ、顔が熱くなる。
「それで、行くのか行かねえのかどっちなんだ。はっきりしろ」
 腕を離し、早口で捲し立てるように言うと、鎮宮の顔に笑顔が浮かんだ。
「ありがとうございます。ぜひ、行きたいです」
「……それならさっさと行くぞ」
 歩き出すと、鎮宮もそれに続く。
 すぐ後ろから聞こえてくる足音が、何とも言えず心地よかった。

 内輪山の山頂——湖巌門の前に着いたのは、昼八つを少し過ぎた頃だった。
 眩しく照りつける夏の日差しの下、涼やかな風が吹き抜ける。
「これが……湖巌門」
 湖の中央にある岩場に建つ湖巌門を見つめ、呟くように鎮宮が言う。
「湖巌門の名前の由来は、この湖と岩ですか?」
「ああ」
 話しながら、二人で湖巌門の傍へと歩いていく。
 そのとき、ふと背筋を走った悪寒に、素早く振り返った。
「……っ! おい、妖魔だ!」
 咄嗟に、鎮宮に覆い被さるようにして、襲いかかってきた妖魔の攻撃を避ける。
「伏せてろ」
 言いながら大太刀を引き抜くと、再び襲いかかってきた妖魔を斬り捨てた。

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あらすじ祈女として鬼の村に勾玉を届けにきたあなた(主人公)を出迎える鬼の長、魂宮魁。
あなたが一晩屋敷に泊まっていくということで、魁はあなたをもてなそうとしますが——?
キャスト魂宮 魁(声:谷山 紀章)
公 開 日2017年6月16日(金)
 
小説とボイスドラマのセットでお送りします。
前半の小説をお読みになった後、ボイスドラマをお聴きください。

 ふと耳に聞こえたひぐらしの鳴き声に、刀を手入れしていた手を止める。
 座っていた縁側から空を見上げると、西の空が薄っすらと赤く染まっていた。
 ……そろそろ出るか。
 妖魔討伐隊は、夕暮れより少し前に村を出て、内輪山で妖魔の討伐を行う。
 今日も例外ではなく、いつも通り屋敷を出るべく腰を上げた。
「颯」
 廊下を歩いていると、背後から声が掛かった。
 振り返った先には、柊殿の姿がある。
「ちょうど良かった。ちょっといいかな」
「何でしょうか」
「颯に頼みたいことがあってね」
 言いながら、柊殿はゆっくりとこちらに歩み寄る。
「急で悪いんだけど、明日の朝まで祈女様の護衛を頼んでもいいかな」
「……鎮宮殿の護衛、ですか」
「うん。今日は相良くんがすぐに人の村に帰ってしまっていないから。他に誰か付いていてあげる人が必要でしょ?」
 相良殿は確か、長老に頼まれた用があるとかで人の村へ帰っているのだったか。
 今朝方耳にした話を思い出しつつ、目を伏せる。
「申し訳ありませんが、俺はこれから内輪山へ見廻りに行かなければならないので……」
「それなら彼女も連れていけばいいんじゃないかな。そうしたら、討伐隊の皆も彼女の儀式で妖魔を倒す力を与えてもらえるし」
「それは……」
 柊殿の言い分は分かる。
 だが、私情だと分かっていても、今はできることならば、彼女と顔を合わせたくなかった。
 言葉を詰まらせていると、どこか仕方がなさそうに笑って、柊殿が首を傾げる。
「彼女の護衛は、魁の命でもあるんだけど、それでも駄目かな」
「……いいえ、魁様の命でしたら断る理由はありません。引き受けさせていただきます」
「そう。それじゃあ頼んだよ、颯」
 軽く肩を叩いて柊殿が立ち去る。遠ざかっていく足音を聞きながら、深く、溜息を吐いた。
 ……彼女に会うのは、あの日以来か。
 数日前の記憶が頭を過ぎりそうになり、束の間、目を閉じてそれを頭の隅に押しやる。
 それから踵を返して彼女の部屋に向かった。

「鎮宮殿……いるか」
 彼女の部屋の前に立ち、声をかけると、一瞬間を置いて「はい」と答える声がした。
 続いてこちらに歩いてくる控えめな足音がして、障子が開く。
 目が合うと、彼女は少し気まずそうに視線を逸らしたが、すぐに笑みを取り繕うとこちらを見上げてきた。
「その……何かご用でしたか?」
「……魁様の命で、明日まで貴女を護衛することになった」
「そうなのですね。ありがとうございます」
 命令で動いているだけなのだから、礼は必要ないと何度も言ったにも関わらず、彼女はいまだにこうして礼を言う。
 それを心地良いと思うようになったのは……一体いつからだっただろう。
「……俺はこれから、妖魔討伐に内輪山へ向かわなければならない。貴女にも付いてきてもらう」
「分かりました。それでは、すぐに支度致します」
 わざと素っ気なく言うが、彼女は気にした様子もなく、部屋の中へと戻る。
 廊下の柱に背を預けて彼女を待ちながら、またしても深い溜息が零れた。

「颯さーん!」
 屋敷の門前に出ると、既に待機していた討伐隊の中から、明るい声と共に啓太が飛び出してきた。
「あれ、今日は鎮宮様も一緒なんすか?」
「はい。颯様に護衛をしていただいているので」
 啓太に頷き、鎮宮殿が深く頭を下げる。
「足手纏いにならないよう気を付けますので、よろしくお願いします」
「足手纏いなんて、そんなことないっす! 鎮宮様の儀式の力があれば百人力っすよ!」
「……ありがとうございます」
 緊張していた彼女の顔が、啓太の言葉にほっとしたように綻んだ。
「……行くぞ」
 何となく、その笑顔を見ていたくなくて、背を向けて歩き出した。

「よーし、鎮宮様の力もあることだし、今日こそ一人で妖魔を倒してみせるっす!」
 内輪山に入ると、がぜんやる気になった様子で啓太が腕捲りする。
 すると、それを見ていた他の隊士が茶化すように声を上げた。
「やめとけ、やめとけ! どうせ妖魔に殺されかけて隊長に助けられるのがオチだ」
「なっ!? そんなの分かんないじゃないっすか!」
「いいや、分かるね。千両かけたっていい!」
「う、うるさいっす! そんな大金持ってないくせに!」
 啓太がむきになればなるほど、隊士たちは面白がって啓太をからかう。
 それを見ながら、彼女も楽しそうに笑っていた。
「…………」
 警護をするなら、彼女の傍は離れるべきではない。
 それは重々分かっていたが、こういった賑やかな場は苦手で、つい逃げるように隊の前方へと移動する。
 ——妖魔の気配を察したのは、彼女から随分離れてしまった後のことだった。

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あらすじ妖魔討伐隊隊長である颯は、ある日、祈女であるあなた(主人公)の護衛を任されることに。
けれど、あなたと颯は何故かぎくしゃくしているようで——?
キャスト颯(声:内田 雄馬)
公 開 日2017年6月23日(金)