神凪ノ杜 五月雨綴り
- 旭
- 「……では、始めます」
- 市丸さんを除いた全員が位置についたのを見て、
旭は上流からそうめんを一束流した。
- そうめんは水の流れに乗って、
私たちのいる下流へ下ってくる。
- 仁科 葵
- 「わあ……」
- 木南 瑞希
- 「すごいね」
- 東雲
- 「おお! 取れたぞ!」
- けれど、流れてきたそうめんは、
東雲さんに取られてしまった。
- まあ、東雲さんの方が上流にいるから、
始めは仕方がない。
- しばらくすれば、私たちのところにも
流れてくるようになるだろう。
- ……そう、思っていたのだけれど。
- 東雲
- 「また取れたぞ! うむ、美味い!」
- 東雲
- 「ははっ、また取れた!
これは楽しいな!」
- 東雲さんは一口でそうめんを食べて、
すぐさま流れてくる新しいそうめんも、
掬って取ってしまう。
- 日向
- 「おい! てめえいい加減にしろ!
こっち全然流れてこねえじゃねえか!」
- 東雲
- 「はっはっは! そう言っている間にも、
ほら、流れてきたぞ!」
- 怒る日向の目の前で、また東雲さんがそうめんを取る。
- 旭
- 「あの……お嬢様方にも、
少しは残していただきたいのですが」
- 仁科 直
- 「諦めろ、旭。
そいつに何言っても無駄だ」
- 仁科先輩が言って、旭からそうめんを
四分の三ほど貰ってきた。
- 仁科 直
- 「こっから流すからお前ら食え」
- 沢木 宋太
- 「仁科先輩、俺がやりますよ」
- 仁科 直
- 「いいよ。俺は後で
市丸さん方式で食うから」
- 木南 瑞希
- 「市丸さん方式……?」
- 首を傾げつつ、市丸さんの座っていた
縁側に顔を向けた。
- そこにはそうめんの載ったざるを脇に置いて、
一人で黙々と食べる市丸さんの姿があった。
- 仁科 直
- 「普通に食うってことだ」
- 沢木 宋太
- 「市丸さん、いつの間に……」
- 宋太くんが苦笑する。
- 仁科 直
- 「んじゃ、流すぞ」